PHANTOM2

May 07, 2011

20110506-IMG_2069.jpg

鎖骨にそってシャーペンで書いたような切り傷。
しかし何故鎖骨が見えるのか?
つまり、それは?
つまりこの板前、上半身が裸だったということになる。 
ようやくそんな大きなことに気付く。
結局、裸に気付いたことに感動し、
奇妙にイキのよかった魚の味も憶えていない。
そもそもそれを食べたのかどうかも。
憶えているのは漬け物。
お盆の上に酒升に山盛りにされたキャベツの浅漬け。
それを上半身裸(だったのだろう)の彼にカウンター越しに渡され、
こう言われた。

「これ、PHANTOMって言う店に届けて」

「ついでに今晩のお通夜の時間も聞いてきてくれないかな?」

PHANTOMという店を偶然にも知っていた。
この店に入る前に鮮やかなレモンイエロー地に小さな文字で
真ん中にちょこんとPHANTOMと書かれた電飾看板を憶えていたからだ。
あの店か。知ってる、知ってる。
お盆の上の浅漬けを持って、僕は階段を下り店を出た。
アジアというか昭和な人通りの多い路地商店街。
おのおのの店から出ている優しい光に抱かれ足が浮く。
しかし目と鼻の先にあるはずのPHANTOMはやはりなかった。
動脈のような商店街の中ををぐるぐる探すと、
屋根の隙間から青くそびえる高層ビルが時折見える。
たまらず通りがかりの男に聞いた。

「あの、PHANTOMってどこでしたっけ?」

「PHANTOM? ハンズに抜ける道だ?」

よく分らないけれど、ここ渋谷のようだ。
男が全部言い終わらないうちに、僕は男の指差した方向に歩き出す。
目の前の景色は渋谷とはかけ離れた、
見慣れたパターンとは全く違う街並にもかかわらず、
僕はさも確信しているかのように、徐々に小走りになっていた。
posted by Admin at 00:55 | General

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