あれは何時ぐらいなんだろ?
しばらくすると、
爆音でラジオを聞きながら新聞配達が来るのが聞こえるから、
4時半ぐらいなのかな?
自分はその時間にパカンと深い眠りから上がってきて、
そのまま、寝てるのか起きているのかわからない状態になることが多い。
そんなときに頭に浮かぶのはきまって過去の出来事。
浮かぶというよりも止めどなく広がってしまう。
実は「広がる」というのは自分が思いついた言葉じゃない。
このことを友達に話した時に「広がってしまうんやね」って言われて、
その表現がびっくりするくらいめちゃくちゃに言い得ていた。
そうそう広がるんだ。
起きているときはキチンと引き出しにしまわれている些細なことが、
だだーっと広がっちゃうんだ。
たとえばある時は、
バイトでたった3ヶ月を共にした、名前も忘れてしまったような奴らのこと。
あいつらとはたぶんもう一生会えないんだろうな、なんて思うと、
その悲しみが、延々広がり続けて、半分寝ながら泣いてる。
またある時は、もう20年も前のこと。
ホカ弁屋でよく見かけた、
いつもなんだかよくわからないレモンイエローと白のストライプを着た、
もうあれ以来見たことないくらいに好みの女の子、
それも働いていた職場の上の階に勤めていたらしい、
あの子になんで声をかけなかったのか?
その悔いが広がりに広がって、やっぱり泣いてる。
もうあんな子には絶対に会えないよ。
一昨日はちょっとおもしろい広がり方で。
「クイズダービー」ってほんとおもしろかったよなぁ...
っていう。それが超広がっちゃって。
あんなに素朴な番組もうないよぉ。
はらたいらが宇宙人だもんな〜、どんだけ素朴でいい時代だよ。
そのことに感動して、泣きはしないけれど懐かしさで一杯になった。
頭の中はあのたどたどしい語りの篠沢教授のループ再生。
えーと、三枠がはらたいらで、四枠が竹下景子だろ?
五枠が、えっと五枠が、どうしても思いだせない!
そのことがたまらなくじれったい。
その悲しさで溢れているときに、銀が騒ぎ出して起きてしまった。
広がっていた引き出しがパタンと元に戻った。
そうなるとこれが不思議なんだよな。
あれだけ会いたかったバイトの連中も、あの子も、篠沢教授も、
別にどうでもいいひとつの記憶になってしまう。
でもその朝は流石にムラに聞いたね。
「クイズダービーの五枠って誰だっけ?」
「そんなの見たことないよ」
ごっくん。
全く広がりようもありませんでしたとさ。