
むかし、むかし、札幌狸小路七丁目に富公というラーメン屋があった。
最後に食べてからたぶん20年は経つと思う。店主が亡くなりその味は地上から消えた。
出された直後はあまり湯気が出ない。スープに油の膜が張っているからだ。
箸で表面をつつくとその穴から地獄谷の如く湯気が立ちのぼる。そんなラーメン。
スープは白く、表現できない香ばしさがあった。そして必ずめちゃくちゃに熱い。
今でもぬるいラーメンを平気で出す店に出くわすと、
頼むからこの商売から手を引いて欲しい...と心から願う。
のも、たぶん富公のに通った影響だと思う。
高校時代、何かにつけて友達とよくそこに通ったものだった。
いつも満員。やっと座ることができると、店主がおたまを向けて注文を聞く。
その日の僕たちは三人。
一番右の友達におたまが向けられる「注文は?」「じゃ、みそお願いします」
次は真ん中「おまえは?」「じゃ、僕もみそ」
次は自分の番。テンポよく当然面で僕は言った「僕もみそ」
「おまえには聞いてねぇ!」
えーっ!ど、ど、ど、どーして? 顔面が引きつったのがわかった。友達大ウケ!
確かに自分にはおたまが向けられていなかった。確かに自分には聞かれていなかった、けれど?。
もう細かいことは忘れたが、そういう扱いはしょっちゅうだった。
しかし、そんな扱いを受けても腹が立つどころか、どんな理不尽さも、
あのラーメンにたどり着く為の、ちょっとした余興に完全になっていた。
その夜、僕はかつて通ったラーメン屋の近くにある、
前から気になっていたやきとり屋のカウンターに座っていた。
事前情報でそこのおやじの接客がとにかくソリッドであると聞いていた。
あの富公のおやじぐらいの凄まじさなのであろうか?いいね、いいね。
どんとこ〜い!苦笑いするのは慣れてます。
ところが、こっちが拍子抜けするくらいに全然そんな感じではなかった。
ま、愛想はないのだが。
ただ肉の間のたまねぎが異常に辛く、もしかして、それが店主なりのソリッドな表現だったかも。
おまえみたいなのはもう二度と来てくれるなと。なんて。
胃が少々焼けながら店を出て、中心街の方に歩く。
安かったなぁ〜あの店。二串240円かと思ったら四串240円かよ!
それにしても俺は今までこの狸小路を一体何往復しているのだろう?
当時は七丁目の富公があって、一丁目にはUKエジソンというレコ屋があった。
つまり端と端なのだが、その間を鬼の様に往復していたものだ。
レコード買って、ラーメン食って、やっぱりあのレコードも欲しいって、
また戻ったりして。今思えばかなり昭和だったなぁ。
六丁目と七丁目の境で信号待ち。
すると目の前にどうしても素通りできない店が出現!
ざっくり言うと海鮮系の居酒屋なのだが、雰囲気がただごとじゃない。
う〜ん、なんて表現すればいいのか?一言で言うなら、、、ソリッド(赤面)
きょうび、どんな店でもイメージ戦略的なことは必ず練られているもの。
たとえば海鮮だったら店が番屋風になっているとか。
そういうものを全部はぎ取ってしまった店だと想像して欲しい。
我慢できず飛び込む。店の中に入ってまた驚いた。
蛍光灯の強烈白さの下に異様なくらいに満員の客。
椅子とテーブルは「バッタ屋で揃えました感」をビシビシ醸し出し、
窓ガラスに何の細工もない店内からやたらと外が見える。な、なっ、なに?ここ。
客層もかなり年齢が高いし、サラリーマン姿の方も多いのだが、
新橋のようには決して見えない。何かが圧倒的に違う。
何かこの雰囲気はどこかで見たような。
なんだ?なんだ?そうだ!この感じは正に「北」だ!
それはいつかのニュースで見たような「北」への潜入取材で撮られた映像にそっくりの状景だった。
これはまぎれもなく、リアル「北」の酒場。
つーか、そういうイメージ戦略? な、わけないんだけど。
僕はそこでたこ刺しと、飲み物はですね、えーっと、えーっと。えーっ!
焼酎がウーロンハイしかねぇ!
後ろの中年カップルは借金をいかに踏み倒すか会議をしている。
やっぱりソリッドだなぁ。ここは確信犯だわ。
出て来たタコは肉厚でとても美味く、僕はウーロンハイを飲みながら、
ロボ宙のことを考えていた。
何故って?ウーロンハイはロボさんのいつもの飲み物なのだ。
飲み屋はともかく、ライジングの時も、
絶対ウーロンハイが置いてなさそうなクラブでも、メニューに書いてなくとも。
何故かロボさんが問答無用で注文すると必ずそれが出てくる。
不思議なんだよな、あれ。
「俺、メニューなんか見てない。相手の目だけみて注文すると不思議と出てくるよ」
(言ってない)
タコ刺しとロボハイを2杯飲んでお勘定。ソリッドプライス700円也!やすっ!
なんか今日はいいことずくめだなぁ。楽しいなぁ。札幌、意外におもしろいなぁ。
なんかいい塩梅に酔ってきたぞ!キラキラ。
俺だけこんなに楽しくてなんかムラに悪いなぁ。
ROYCEで甘いものでも買って許してもらおっと。あったまいい〜。
口の周りが自分でもわかるくらいにがっつりしょうゆ臭くしながら、
僕は本日の目的である4丁目付近にあるライブハウスに向かった。
ぽんぽこ、さっぽろ。ぽんぽこ〜、さっぽろ。
狸小路は、ぽんぽこシャンゼリゼ〜。
なんで狸なんだろうねぇ?
なんでみんなおっさんになるとロックを聞かなくなるんだろうねぇ?
もう地下に溜まっている少年少女よ。俺、溜まりしょうゆ臭くてごめんね。
今から行くから。
+++北海道PLAINJAPふるさと通信員+++